こんにちは!QTnetの山﨑です。

先日久しぶりに下関まで足を延ばしてきました。門司港レトロの街並みを楽しんだ後、

貨物船やクルージング船の往来を眺めながら対岸の下関へ。

ずらりと並ぶ寿司屋台で有名な唐戸市場を散策して、名物のフグとノドグロを味わいました。

海は見慣れているものの、いつもより雄大さを感じるのは、巨大な関門橋と

点在する近代的なビルのコントラストが関門海峡の絶景を演出しているからでしょうか。

 

さて、前回は「テレワーク成功のための〝三本柱〟とは」についてお送りしました。

企業がテレワーク導入を検討する場合、成功させるために必要となるのは

「インフラの整備」、「制度の整備」、「組織風土の醸成」という3つを整える必要があることを

お伝えしました。上記3つの柱を支え強靭なものにするために、

さらに3つの土台が必要だということも森本さんの話から理解することができました。
 
もう一度読みたい方は≪アーカイブ≫からお読みいただけます。

 

11回目は「テレワーク導入を先導したのは外部要因の変化【佐賀県庁のご紹介】(前編)」について

お送りします。今や「テレワークの第一人者」として知られる森本さん。こう呼ばれるようになったのは、

全国に先駆けて佐賀県庁で全職員を対象としてテレワークを導入し、普及に成功したことでした。

しかし着任した当初はテレワークの導入については全く考えていなかったそう。

では、どのような経緯でテレワーク導入に踏み切ったのでしょう。

導入に至った経緯や実施にあたって直面した課題などについてお話いただきました。

 

今回も森本さんに伺っています。それでは、 お付き合いください。

 

 

<今回の特集>

1 20年前から?!「テレワークは当たり前」マイクロソフト時代

2 決断のきっかけは「東日本大震災」や「iPad発売」も

3 「3人のミスターテレワーク」が現れて、急加速

4 一斉に100台を配布、実証実験がスタート

 

 

1 20年も前から?!「テレワークは当たり前」マイクロソフト時代
 

佐賀県庁で4000人もの職員にテレワークを導入した森本登志男さん。

しかし、「佐賀県庁に赴任した当初は、テレワークを導入するなどということは、

考えることすらしませんでした」と語る。

それが、どういうきっかけで導入することになり、どのような経緯で実現させることができたのか。

自治体という特殊性はあるにせよ、大きな組織にテレワークを導入するという点では
企業にも参考になることが多い。

今回から上下2回に分けて、佐賀県庁にテレワークが導入された過程を時系列で紹介したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森本さんは1995年から2011年までマイクロソフトに在籍した。

日本と米国本社、さらに他国にいるスタッフとの間で会議やデータのやり取りをこなす中で

「(時差があり場所も遠く離れているメンバーの間では)テレワークは普通の働き方として利用
されていました」という。

20114月に佐賀県が公募した最高情報統括監(CIO)に選ばれて佐賀県庁職員として着任。

森本さんで3代目のCIOの役割は、県庁のさまざまな分野でICT(情報通信技術)を活用して、

行政サービスの向上、県民の暮らしや県内産業をより豊かなものにすることだった。

先に述べたように森本さんはテレワーク導入などまったく念頭になかった。

「外資系のIT企業と、組織の存在意義や風土が全く異なる自治体に、

庁外や自宅での業務を勤務として認めねばならないテレワークを導入するには、

そのための手続きだけでも果てしなく膨大な作業が待っている。私の任期中では無理だろう」
と感じたからだ。

 

 

2 決断のきっかけは「東日本大震災」や「iPad発売」も
 

しかし、さまざまな外部環境の変化によりテレワーク導入のための環境が整っていった。

 

1つ目は、2009年に流行した新型インフルエンザと2011年に発生した東日本大震災。

これらの出来事によって、災害時における企業や自治体の業務継続の重要性がクローズアップされた。

佐賀県では森本さんが赴任する前、2009年の新型インフルエンザが流行した際に、

伝染病の感染拡大(パンデミック)に際しての事業継続計画(BCP)が策定されていた。しかしながら、

その事業継続計画に「登庁しない」と既定された職員が自宅などで業務継続する方法はないまま、
年月だけが経過していた。そんな中、森本さんが佐賀県に赴任する直前に東日本大震災が発生し、

全国的に業務継続に関しての対策が強く求められるようになっていた。

 

2つ目は第2次安倍内閣(201212月発足)が打ち出した女性活躍推進政策。

少子化対策など将来に向けた行政課題では、助成対象のものが非常に多くなってきている
にもかかわらず、佐賀県庁にはそうした課題を引っ張っていくべき女性の管理職や幹部職員が
非常に少ない状況であった。

 

採用時には男女の比率はほぼ同数であるのに、出産・育児に伴った女性の離職がその原因になっていた。

さらに、親の介護による離職が今後増加して行くことは、年齢別の職員の分布から見ても
容易に想像のつくことであった。出産・育児による離職、介護による離職、これらを防止する方策にも
迫られていた。佐賀県では、森本さんが赴任する前の2008年に、全国の自治体の中では最初に
在宅勤務制度を導入しており、これらの諸問題への対策は打っていたが、利用者は年間10名程度。
普及しているとは言えない状況にあった。

そこに女性活躍推進が国策として推進することが打ち出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、米国Apple社のタブレット端末「iPad」が2010年に発売。翌年4月には佐賀県が

急患の搬送先病院の受け入れ状況をWebで〝見える化〟するシステム「99さがネット」を導入。

救急車にiPadを配備して搬送時間短縮に効果を上げた。これをきっかけとして、県議会議員全員が
iPadを持つなど、タブレット端末を業務の改善に生かすという機運が徐々に高まってきていた。

 

森本さんは「こうした複数の外的要因がテレワーク導入を可能にする環境を整えていった」と当時を述懐する。

 

 

3 「3人のミスターテレワーク」が現れて、急加速
 

前段で述べたさまざまな問題の所管は主に人事部門。そのため、担当者が情報部門へ
たびたび相談に訪れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森本さんはCIOという幹部職なので、普通であれば応接セットも備えた個室が用意され、
その中で執務を行うことになる。

ところが、佐賀県のCIOは前任者以来、個室には入らず、あえて情報部門の部屋に壁も設けず
席を置いていた。森本さんもそのやり方を踏襲した。特別室に引き込んでいては仕事にならない、
現場の動きを見通す必要があるとの判断からだ。

 

そのため、彼らの相談内容は自然と森本さんの耳にも入ってきた。

 

やがて問題意識を共有する人事と情報の係長に、人事異動してきた業務改革部門の係長が加わり、

この3人によって、現場での検討に拍車がかかっていった。
3人の係長の上司である3人の課長とその部下、

そして前職で10年以上もテレワークを体験してきた森本さんもCIOの立場として加わり、

佐賀県庁のテレワーク導入の「核」となる推進チームが自然と形成されていった。

 

「私は彼らの作ったみこしに乗っただけ」と森本さんは謙そんする。
だが、CIOという立場の森本さんがチームに加わり後ろ盾となったことで、
構想は急速に実現化の色を帯びてきた。

 

 

4 一斉に100台を配布、実証実験がスタート
 

ここまでの経過で重要なのは、問題解決へのアプローチが、関連する現場責任者である
複数の係長の連携から始まり、部下と上司、さらにはCIOという経営層を巻き込んで、
テレワーク導入へとつながっていったことだ。

現場が絡まず密室で決定されたトップダウンのスタートだったり、テレワークそのものが目的となったりすると

導入がうまくいかないことが多い。

佐賀県庁のケースは、連載10回目で指摘したテレワーク導入に必要な要素のうち「目的の明確化」と
「成功イメージ」の共有を、現場担当者と経営層も含めて、最初の段階で作り上げている。

この段階で、それに呼応するエキスパート(森本さん)のアドバイスや指導があったことも大きい。

もうひとつの要素である「組織体制の確立」は、既に述べたように、

必要な部門の担当がしっかりとコミットする形で組み上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この推進チームは、20134月、佐賀県庁で「モバイルワーク推進実証事業」をスタートさせた。目的は

1)各部署でモバイル端末が活用される可能性の把握

2)技術的あるいは業務的課題の収集

3)端末数や仮想デスクトップ環境の導入規模の検討

4)それらの条件から導入に必要となる費用の算出

5)管理者層のテレワーク体験など。

 

その具体策として同年81日、県庁35部署にモバイル端末100台を配布。

さらに、管理職層に対しての週1回のサテライトオフィス勤務などを骨子とする実証実験がいよいよ始まった。

 

 

<あとがき>

世界のIT分野をリードするマイクロソフトでは、20年も前からテレワークは当たり前。
世界各国のスタッフとやり取りすることを考えれば不思議ではありませんね。
この回を読めば、これまで森本さんに

話していただいた110回目までの内容とリンクしていきます。

連載2回目や10回目に出てくる「インフラ整備」、「組織風土の醸成」、連載5回目の

「災害時こそテレワーク」、6回目の「社内の抵抗勢力」など、もう一度読み返してみると

森本さんが警告や強調されていたことが「そういうことだったのか」と改めて理解できそうです。

 

 

12回は「テレワーク成功のメソッド【佐賀県庁のご紹介】後編」

次回も、佐賀県庁へのテレワーク導入にあたって、森本さんがどのように進めていったのかを

お伝えします。ミスターテレワークら3名が中心となり、加速していくテレワークの本格導入。

全国で先駆けて行政が取り組んだ「テレワークの導入」の一部始終がわかります。

次回もお楽しみに!


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